HOME > ライフスタイル&グルメ紹介 > 人々|Vol.23 世界が注目する 富士山の麓、山中湖で
日本人なら誰もが知る名選手として名を馳せ、現在はDeNA Running Club(ディー・エヌ・エー ランニングクラブ)の総監督として次代のトップランナーを育成している瀬古氏をお訪ねし、お話を伺いました。
山中湖ロードレースやEKIDEN for peaceなどのチャリティ、その他にも様々なマラソンや駅伝大会を通じて、山中湖や富士五湖方面には浅からぬご縁があるという瀬古さん。個人的にも夏の間はよく山中湖で過ごされるのだそうです。
「都内がどんな猛暑の時でも、山中湖ではエアコン要らずなほどに涼しく過ごせますしね。のんびりくつろぐのには最適なんですよ。個人だけでなく、以前は選手たちを率いての合宿の場としても利用していたんです。」
近年の長距離のトレーニングで心肺機能を高めるために欠かせないのが高地トレーニング。今は海外の高地に出かけることも珍しくありませんが、瀬古氏は国内でも良い所がたくさんあると言います。
「シンプルに標高が必要な場合は長野方面でトレーニングすることが多いですね。山中湖にしても高度1000m近くありますから準高地レベルと言えるでしょう。しかも富士山と湖が織りなす美しい風景や爽やかな空気は魅力だし、何より東京からわずか90分程というその近さがいいですよ。」
このほど富士山が世界遺産に認定されたことで、多くのランナーにとっては「世界遺産を走れる」という魅力も増していることでしょう。
「そこで課題になるのは、ランナーが走る上での安全面やバックアップ体制なんです。」
瀬古氏によれば、西湖ではよく実業団や大学の合宿が行われているという。
西湖を選ぶ最大の理由が交通量の少なさに代表される選手の安全面だそう。
しかし西湖よりもアクセスに優れた山中湖でランナーの安全が確保されるのであれば、山中湖が新たなメッカとして注目される可能性は十分にあると言います。
「でも今整備されている自転車・歩行者道が完成すれば、状況は一変します。大学や実業団はもちろん市民ランナーまで、山中湖のランナー人口は一気に増加するでしょうね。」
さらにこうしたランナーたちを受け入れる施設や体制などが整備されれば、近い将来山中湖が選手育成の主力舞台になるかもしれません。
世界の宝・富士山を見ながら、誰もが快適なランニングを楽しめる山中湖。そんな時代が早く到来するといいですね。
瀬古氏は現在、DeNA Running Clubの総監督として、9名の若い選手を指導育成しています。
「選手の時代は自分ひとりが努力すれば良かったんですが、しかし複数の選手を育てる指導者となると、今度は選手ひとりひとりを注意深く観察し、それぞれの個性やタイミングに合わせた指導をしなければなりません。そこが最大の違いですね。」選手側の気持ちやコンディションをしっかりと把握した上で、客観的かつ効果的な指導を行う必要があるのだそうです。特に長距離ではフィジカル面はもちろん、メンタルへの配慮も重要になるのだそう。毎日の練習ひとつとっても、選手の気持ちをアップさせていく工夫を意識されているそうです。
「その意味では、例えば山中湖のように気分のいい場所でのトレーニングを行えることは、選手のモチベーションをあげる上でもとても効果が高いんですよ。」
瀬古氏が現役の頃は、とにかく常に走る。四六時中走る。というのが当然だったそう。しかしクルマも自転車もあり、望めば何でも手に入る環境が整っている今は、ある意味でのストイックさを維持することが難しくなっているのかもしれない、と瀬古氏。
「ただしそんな中でも必ず強くなる選手がいるんですよ。選手としての素材とか注目度などとは別に、恵まれた環境の中でも自分を甘やかすことなく、強くなるための努力を継続しつづけた選手だけが、最終的な強さを手にするのだと思います。」
瀬古氏は、先頃の世界陸上で入賞を果たした中本選手を例に挙げてこう言います。「彼は学生時代にはそれほど突出した選手ではありませんでしたが、地道でしっかりとしたトレーニングを今日まで継続してきた、いわば努力の選手です。こうした長年の蓄積が確実に実力となり、自信となることで、世界の強豪と渡り合い結果を残せたのだと思います。」
瀬古氏は、今の時代に生きる選手だからこそ、それに合わせたメンタルの強化が重要なのだと考えているようです。
この取材の直前、世界的なビッグニュースが飛び込んできました。
2020年オリンピック・パラリンピック開催地が東京に決定。瀬古氏もこのニュースには感極まったそうです。「決定の瞬間までテレビにかじりついていました。随分と焦らされましたが、決定した瞬間は本当に涙が出るほどの喜びでした。それ以降、毎日テンションが上がりつづけで(笑)。」
56年ぶりに日本で開催される夏季オリンピックは、多くの日本人の喜びですが、「特に震災で被災された方々にとって、ぜひ希望の灯となってくれたら嬉しいですよね。」とチャリティー活動にも積極的に取り組む瀬古氏。
そして一方でアスリートたちにとっても、自国開催のオリンピックは特別なものだと言います。「自分の国で開催されるオリンピックに出るという目標は、選手達にとってこれ以上にない大きな目標ですよ。」
毎日の厳しいトレーニングを乗り越える原動力となる上に、選手間の切磋琢磨も激しく高度になることで、選手たちの可能性が最大限に花開くはずだと瀬古氏は期待されています。
「私のチームの選手はもちろん、中高生や、箱根駅伝をめざして頑張っている選手たちには、ぜひ大きく飛躍してオリンピックの舞台に立ってもらいたいですね。」
山中湖で練習を積み、世界レベルの実力を育んだ選手たちが「富士山の申し子」として2020年東京オリンピックの舞台で活躍する姿を、ぜひこの目で確かめたいものです。
三重県出身。70年代から80年代にかけて日本長距離界を牽引し、世界のトップに君臨した名ランナー。2013年4月よりDeNA Running Clubの総監督を務めている。
オリンピックを始めとする各種世界大会に挑戦できる選手を輩出するとともに、ジョギング教室などの社会活動や、アスリートの育成とサポートなどを通じて日本の陸上競技レベル全体の向上をめざしている。
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